編集:連載後半、残すところ3作品となった「旬感・少女美」ですが、今回は大型ロケとなりましたね。

野下:そうですね。2泊3日、苗場、越後湯沢といった日本だけではなく世界有数の豪雪地帯でのロケ。
モデルさんが二人、しかも冬のど真ん中1月。なんと朝夕の気温はマイナス6度まで下がりました。

編集:なんでまたそんな過酷な環境で(笑)!

野下:マイナス6度と聞くとビックリするかもしれませんが、実はそれほどでもないんですよ。過去に長野県菅平でロケした際はマイナス20度でした(笑)

ここまで気温が下がると、レンズの中で結露しちゃって、数日その環境に慣らさないとどうしようもないのですが、マイナス6度程度なら機材関係は全く問題ありません。
それよりも吹雪!標高1.000メートルの苗場山の吹雪は屋外に出るだけでも厳しく、とても撮影できる環境ではありませんでした。 なので越後湯沢(標高300~400メートル)まで下り、吹雪も収まり、お昼になって気温も少しは上がるタイミングに合わせましたが、やはり圧倒的な雪の量「豪雪」はモデルさんたちのテンションがあがります。
「非日常」というシチュエーションは放っておいても(笑)良い表情が撮れますからね。 それと「季節(四季)を作品に写し込む」ということで、必然的に(?)冬の象徴的な画として「雪」となるわけですね。美少女に雪は似合いますし。

編集:なるほど。ではモデルさんを二人起用した理由は?

野下:モデルの子が自然体でいられるということが一番の理由ですね。 どうしてもスタッフは大人ばかりになってしまいますし、3日間の長いロケとなるといつにも増してモデルの子のメンタル面や負荷を考慮してあげなければいけない。 仲良し同士でロケを組めばそういったロケのマイナス面をクリアできるし、やはり子供は子供です。 雪を見れば遊びたくてムズムズするでしょ?そんな時に遊び相手が大人のオジサンでは可哀想です(笑) 子供同士で遊ばせてあげればそのうちに撮影を忘れて(笑)自然に最高の笑顔になってくれるでしょ。 ただしそこは一般の子供ではないから、仕事として「撮られている」ということは忘れない。 実際今回の二人はライバル心というか、やはりお互いを意識して刺激を受け合っていた。 モデルが一人の時よりも2倍、いや2乗といっても言い過ぎじゃないぐらい良い表情が撮れたりするので、そんな狙いもあって二人にしました。

編集:確かにそれだけの設定があれば大人でも良い表情になっちゃいますよね。テンションがあがる。
でもそれだけの大雪、しかも真冬となるといろいろと技術面や進行面で大変なことも多いのではないでしょうか?

野下:そうですね。雪の中での撮影というのは晴れていても雪が降っていてもとにかくどの季節よりも難しいです。特に人物写真となると本当に骨が折れるし、予定通りにいかないことの方が多いというのがある意味前提となってきたりもしますよね。
でもその分、雪が写真に写り込む無駄な要素をすべて覆い隠してくれるというメリットもあります。
「美少女×雪景色」というのは少女美を撮るうえでは鉄板。 モデルさんの美しさや愛くるしさが余計な要素で邪魔されることなく、ストレートかつ印象的に撮影できる最高の舞台装置とも言えるわけです。

編集:技術面や進行面のリスクやマイナス面を差し引いても大雪というシチュエーションを選ばれたわけですね。

野下:そうですね。 実は雪国ロケは今回でもう十数回目なんです。ただしやはり技術面で言うと通常のロケで使うカメラや機材だといろいろと追いつかない面もありました。 そんな訳もあって今回は事前にミラーレスカメラを試してみたんですよ。 撮影はシャッターを切る前に、シチュエーションや背景や光の状態は準備済みにしておきますが、いざシャッター切る瞬間に必要な事は、シャッターチャンス・フレーミング・ピント・露出の四つです。 この中のピントと露出をミラーレスならではの顔認識に任せてしまえば、私自身はフレーミングとシャッターチャンスに集中することができる。 撮影手法もいつものロケとは違い、大雪を想定し今までの課題をクリアできないかといろいろとシュミレーションや予行演習をしていました。 でも結果的にはやはりいつもの機材、いつもの撮影手法になっちゃったんですけどね・・・。

編集:そうだったんですか。ミラーレスを試されたんですね。

野下:ミラーレスは顔認識でピント、露出は機械任せにできるので、そこに余裕が生まれますから。
でもやはりまだ技術進歩の途上段階と言いましょうか、自分の要求するレスポンスが得られないことがわかった。こんな言い方をするとメーカーの技術の方に失礼かもしれないですし、私が慣れていないということももちろんありましたので誤解してほしくはないのですが、やはり今までの機材、撮影手法がベストだという判断となりました。
「月刊カメラマン」という雑誌は「写真雑誌」ですから、やはり仕上がった写真のクオリティに妥協は許されません。 ですので、月刊カメラマン本誌上では今までの機材、撮影手法のものを掲載する形にしました。
とはいえ、ミラーレスは、一瞬先が予測できないスナップ写真的なライブ感や表情の妙味、偶然現れた瞬間の面白さや空気感などを写すにはなかなか適したツールだと感じました。 枚数を多めに見せることのできるデジタル写真集やwebギャラリーなどにはとても向いていると思います。

編集:なるほど、確かに2ページ構成の誌面で発表できる枚数はせいぜい3~4枚。 そうなると現時点でのミラーレスの性能が雪ロケという過酷な状況だとちょっとどうなんだろう、、ということも分かります。
いろいろな試行錯誤やトライがあったんですね。ご苦労様でした!

編集:さてそれでは話を変えて、今度はふたりのモデルさんについて撮影後の感想をお聞かせください。
まずは先輩格の長嶋るみさんから。

野下:るみちゃんは大好きなモデルさんです。 自由奔放、とにかく子供らしさの純度が高くしかも非常に美少女。 実は彼女が事務所と契約をしたずいぶん前(おそらく4,5年前)から何度も撮影する機会をもらっています。 でも正直こう言っちゃ大変失礼なんですがその頃の印象はあまりないんですね。
しかしここ1、2年のるみちゃんのモデルとしての魅力の開花には本当に驚いています。

予定調和とならないワクワクした感覚を持って撮影に臨める稀有なモデルさんに成長したと思います。 何をしでかすか分からない。そこに制御できない面白さをとても感じますし、そういう自由な動きのできるモデルさんというのは過去にもそんなに多くはなかった。いや、ほんの数人、数えるほどでした。 だから撮影技術面の事情による指示、コントロール以外は彼女の好きに動いてもらっています。 無論、怪我だけはしないように最大限の注意を払っていますが、逆に自分への注意点はそこだけです。 よほど本人の動きがとまってしまえば別ですが、基本はノーコントロール。 まるでペット写真を撮影しているような錯覚を覚えます。(笑) 先に絵柄のイメージがあって、その型にはめ込もうとするよりも、自由奔放させた方が彼女らしい生き生きとした表情が得られます。 そういう意味ではるみちゃんは撮影会のような状況だと撮りにくいモデルさんかもしれません。 でも逆に言えば予定調和的な写真とは真逆を目指すには最高のモデルとも言えます。 奇跡のファインショット、、場外ホームランの1枚が欲しいならるみちゃんのようなモデルさんは本当に貴重ではないでしょうか。 まさに今が旬。彼女が撮影会に出演する機会はまさに特大場外ホームランを狙うチャンスです!空振り三振を恐れずに振り切ることは必須ですが。(笑)

編集:お話を聞いていると撮るのが難しいモデルさんに思えてきてしまいますが(笑)

野下:難しいというよりも、何を撮りたいのかを撮り手が自問自答してモデルさんを選べばいいんだと思います。 じっくりと丁寧に撮影したいという方はそういうモデルさんはたくさんいますので、画作りを楽しみながら1枚1枚自分のイメージに沿う写真を撮ればいいと思いますし、そうではなくて予測不能な何かを撮りたいということであれば、るみちゃんのようなモデルさんを探すべきです。 キッズモデルの世界にはそういうモデルさんもたくさんいます。 ただし「美少女」となるとその数はぐっと減りますよね。(笑)

編集:チャームグループさんの撮影会のステルスマーケティングですね(笑)

野下:いえいえ、これは撮影会に参加していらっしゃる方であればみなさん感じていらっしゃることだと思います。これだけのレベルの美少女達が一同に会し、しかもいろいろな性格、タイプのモデルさんをラインナップしている撮影会はどこにも存在しないと思いますよ。
100か月以上連続で満員御礼の撮影会なんて聞いたことがありません。

編集:それでは新人の岩田れなさんはどういうモデルさんでしたでしょうか?

野下:れなちゃんを撮るのは実はこれで3回目。まだモデル活動をはじめて1年経っていないということを考えると頻繁に撮影させてもらっているモデルさんです。
だからというわけではないのですが、さすがに1年に満たない間に急激な変化という事はありません。
でも彼女は良い意味で不思議なモデルさんで、毎回何かとても素敵な写真が撮れそうな予感のするモデルさんなんです。 実際にはまだ「初々しい」と評することが適切な状態で、彼女の表現力はまだまだこれから開花すると感じていますが、毎回「まだ撮りきれていない魅力がたくさんある」と感じています。良い意味で。
そういう意味では「旬」はこれから。伸びしろのとてもある、可能性のあるモデルさんだと思います。

編集:写真でみると大人っぽい雰囲気のモデルさんですよね?

野下:そうですね。落ち着いているというか、とても雰囲気のある子ですよ。そして目がとても印象的で吸い込まれそうな魅力がある。 言葉にしにくいのですが、顔のつくりや目の印象に対し中身とのギャップがあるとも言える子でしょうか。
これからの変化や進化、成長にとても期待しているモデルさんです!

編集:モデルさんのお話、ありがとうございました。

編集:それでは最後になりますが、今後の「旬感・少女美」についてお聞かせください。

野下:実は事務所の方とも話をしていたのですが、今回を含めて4回の撮り下ろしを通じ、ちょっとした「限界」を感じています。

編集:と言いますと?

※編集注:ここからは話し手がプロデューサー氏に変わっています。

P氏:(野下さんともほぼ同意見だったのですが)後ろ向きな「限界」の話ではありません。

それはつまり、「少女美」なるものを写真表現で見せて(魅せて)いこうとする時に、どうしても限られた誌面、限られた掲載枚数では伝えきれない場合があるという事なんです。 写真というものは本来1枚でもとても多くのことを伝えられるものだと思っています。
でも我々の撮影手法や好みとして、1枚で伝えきるということに限界を感じているというのが正直なところ。 つまりそれだけ溢れんばかりの魅力に満ちているのが少女美なんだと再認識しているという事なんです。
撮影手法を変えていけば感じている「限界」に対する答えは出せると思います。 でもやはり我々が長年やってきた撮影手法を変えることは「好み」という面でも変えていくつもりはありません。 今回雑誌というメディアで作品公開を機会をいただき、あらためて自分たちのやってきたことを振り返ることができました。 メディアが違えば撮影手法ばかりか、掲載する写真の選定まで大きく変わる。 答えそのものが違う。 そんな素敵な答えが見えてきたような気がするんです。
それこそが「少女美」なるものの奥行きというか躍動感というか面白味なのではないか? そんな結論のようなものを感じたのが今回の豪雪ロケでした。

野下:というわけでちょうど1年が経過するあと2回の撮影で「旬感・少女美」はその第一幕を閉じる予定です。

編集:寂しい気持ちもありますが、四季が一巡りする初夏に未来へそのバトンをつなぎたいと思っています。

一同:ラスト2作品、魂を込めてお届けします!お楽しみに!!!!